メテオ・ガーデン / 異世界SF風ファンタジー(完結)

歌え。記憶を──歌え。

強化ガラスで完全防護された巨大シェルター〈トリゴナルK〉で暮らす少年サイレは、ある日叔父に誘われて星〈メモリア〉適合実験に参加する。謎の美女シファによってもたらされたメモリアがサイレに見せたものは、古代の少女エンジュの記憶だった。やがてサイレはエンジュに心奪われていくが……。​
天上の星が生命を司る世界の、過去と未来とその先。

  • 00. 神話の丘

     あのころわたしたちは、今よりずっとおしゃべりだった。 ものいわぬ満天の星々の下で、わたしたちはいつから言葉をかわしていたのだろう。 ふと気づいたとき、わたしはあなたに話しかけ、あなたはわたしに答えていた。わたしはあなたの話すことすべてに興…

  • 01. 〇・〇〇〇〇〇〇〇〇五パーセントの少年

    〈最後の竜〉と呼ばれた巨大生物が、トリゴナルKの市民動物園の中心、専用の檻の中で死んだ。 その死に最初に気づいたのは、両親に連れられた幼い少女だった。赤い風船を揺らしながら檻の前に立った少女は、次の瞬間、火がついたように泣きだした。 少女の…

  • 02. ポイント・オブ・ノー・リターン

     目を閉じても、閉じなくても。目の前には、あの日焼きついた光景がちらちらとよぎる。 少女の笑い声。大樹の上からひらりと舞い降りて、与えられた不自由に、いや、と叫んだ声。かたわらにいる小さな爬虫類の静かなまなざし。 スープの匂い、藁の匂いのす…

  • 03. 理論上、絶対

    「やーめーろーやー!」 ぱぁん、とギルヴィエラの手が鳴り渡る。コレペティートルのファナが震えあがり、ピアノが止まる。「サイレてめえ、やっと出てきやがったと思ったら! もう感情入れるどころか、音の強弱つける気もないってのか」「そうですかね」「…

  • 04. 変わりゆく世界

    〈だめだ、エンジュ! だめだ、離れて!〉 聞き覚えのある声にふと顔をあげたサイレは、ショッピングモールの各所に設置された街頭モニタの中で叫ぶ自分を発見し、その場で固まった。「サイレ君、あれ」 彼女が指さしたほうをみると、高層ファッションビル…

  • 05. 夢の庭にて

     彼女は、戦場に静寂を運ぶ。 馬の蹄が大地を砕いて走るのとは異なり、彼女の乗るトカゲは一歩一歩地面をつかむようにして進む。トカゲは身丈が低く、騎馬隊のなかに紛れこまれると埋もれてしまう。が、馬と同じくらい、ときにそれ以上に速く駆けるので、戦…

  • 06. ハートブレイク

     大好きなひとの近くにいて、そのひとの幸せを手伝える幸せ。そのことを、イヴは自分を育ててくれた父から教わった。 そして今、「んんー……」 近くにいるそのひとが、おかしなことになっているのを、イヴはまのあたりにしている。 そのひとは、歌ってい…

  • 07. 最初にして最後のデート

    「デートぉ!」 イヴは叫んだ。「ああ、デート」 アイバンは神妙にうなずいた。 うわさの張本人を除く、いつもの三人だった。イヴとラケルタとアイバン。この三人の組み合わせは、おしゃべりなイヴとアイバンのふたり芝居になりがちで、ラケルタはにこにこ…

  • 08. 運命を曲げ、従わせる者

    〈時間を超えた純愛! 世紀のボーイソプラノ、サイレ・コリンズワースの逃避の恋、衝撃の結末〉 それを見て、サイレは咳きこんだ。「あれだけ目撃者がいればな。記事は書けるよな。うん」 アイバンはホロをオフにして言う。「まー……驚いた。まさか首締め…

  • 09. 終わりの歌

     ――遠い昔、神さまと賭けをした。「ラケル?」〈OK〉と表示された端末を、少女は凝視する。 止まっていた時間はうごきだしたのだと、いや、少女自身を遠い過去に残したまま、ひたすら流れ去る一方だった時間が、とうとう少女を受け入れたのだと思うと、…

  • 10. 神話の少年

     すすり泣きが満ちる葬送エリアで、イヴはアイバンとギルヴィエラとともにうつむいていた。 かたわらのアイバンは、ファンの女性たち以上に泣いている。「サイレ、あいつ……だからちゃんとしとけって……」 言葉は、涙にのみこまれてしまう。サイレのたく…

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