メテオ・ガーデン

10. 神話の少年

 すすり泣きが満ちる葬送エリアで、イヴはアイバンとギルヴィエラとともにうつむいていた。 かたわらのアイバンは、ファンの女性たち以上に泣いている。「サイレ、あいつ……だからちゃんとしとけって……」 言葉は、涙にのみこまれてしまう。サイレのたく…

09. 終わりの歌

 ――遠い昔、神さまと賭けをした。「ラケル?」〈OK〉と表示された端末を、少女は凝視する。 止まっていた時間はうごきだしたのだと、いや、少女自身を遠い過去に残したまま、ひたすら流れ去る一方だった時間が、とうとう少女を受け入れたのだと思うと、…

08. 運命を曲げ、従わせる者

〈時間を超えた純愛! 世紀のボーイソプラノ、サイレ・コリンズワースの逃避の恋、衝撃の結末〉 それを見て、サイレは咳きこんだ。「あれだけ目撃者がいればな。記事は書けるよな。うん」 アイバンはホロをオフにして言う。「まー……驚いた。まさか首締め…

07. 最初にして最後のデート

「デートぉ!」 イヴは叫んだ。「ああ、デート」 アイバンは神妙にうなずいた。 うわさの張本人を除く、いつもの三人だった。イヴとラケルタとアイバン。この三人の組み合わせは、おしゃべりなイヴとアイバンのふたり芝居になりがちで、ラケルタはにこにこ…

06. ハートブレイク

 大好きなひとの近くにいて、そのひとの幸せを手伝える幸せ。そのことを、イヴは自分を育ててくれた父から教わった。 そして今、「んんー……」 近くにいるそのひとが、おかしなことになっているのを、イヴはまのあたりにしている。 そのひとは、歌ってい…

05. 夢の庭にて

 彼女は、戦場に静寂を運ぶ。 馬の蹄が大地を砕いて走るのとは異なり、彼女の乗るトカゲは一歩一歩地面をつかむようにして進む。トカゲは身丈が低く、騎馬隊のなかに紛れこまれると埋もれてしまう。が、馬と同じくらい、ときにそれ以上に速く駆けるので、戦…

04. 変わりゆく世界

〈だめだ、エンジュ! だめだ、離れて!〉 聞き覚えのある声にふと顔をあげたサイレは、ショッピングモールの各所に設置された街頭モニタの中で叫ぶ自分を発見し、その場で固まった。「サイレ君、あれ」 彼女が指さしたほうをみると、高層ファッションビル…

03. 理論上、絶対

「やーめーろーやー!」 ぱぁん、とギルヴィエラの手が鳴り渡る。コレペティートルのファナが震えあがり、ピアノが止まる。「サイレてめえ、やっと出てきやがったと思ったら! もう感情入れるどころか、音の強弱つける気もないってのか」「そうですかね」「…

02. ポイント・オブ・ノー・リターン

 目を閉じても、閉じなくても。目の前には、あの日焼きついた光景がちらちらとよぎる。 少女の笑い声。大樹の上からひらりと舞い降りて、与えられた不自由に、いや、と叫んだ声。かたわらにいる小さな爬虫類の静かなまなざし。 スープの匂い、藁の匂いのす…

01. 〇・〇〇〇〇〇〇〇〇五パーセントの少年

〈最後の竜〉と呼ばれた巨大生物が、トリゴナルKの市民動物園の中心、専用の檻の中で死んだ。 その死に最初に気づいたのは、両親に連れられた幼い少女だった。赤い風船を揺らしながら檻の前に立った少女は、次の瞬間、火がついたように泣きだした。 少女の…

00. 神話の丘

 あのころわたしたちは、今よりずっとおしゃべりだった。 ものいわぬ満天の星々の下で、わたしたちはいつから言葉をかわしていたのだろう。 ふと気づいたとき、わたしはあなたに話しかけ、あなたはわたしに答えていた。わたしはあなたの話すことすべてに興…