精霊呪縛 / 第一部 プリエスカ・理学院編

王立理学院に通う少年シフルは、精霊召喚士を目指し日々勉強に勤しんでいた。好敵手と心に決めた《セージ・ロズウェル》を追いかけて最高クラス入りを果たしたとき、シフルを訪れたものとは――。
 
 
  • プロローグ 拱廊にて

     拱廊の果てから、聞き覚えのある懐かしい足音が響いてきた。 しかしそれはあまりにも遠く、空耳のようでもある。 シフルは足を止め、耳を澄ました。確かに聞こえる――そんな気がした。「シフル……? どうしたの」 かたわらに彼がいないと気づいて、友…

  • 第1話 負けずぎらい

     ただ、精霊たちの名を想えばいい。 火(サライ)、水(アイン)、風(シータ)、土(ヴォーマ)――世界を構成する四大元素精霊の、属性であり分類上の定義でもあり、同時に個々の彼らをいいあらわしもする――大切な名前を。 人はいずれの力を借りるとき…

  • 第2話 好敵手

    「メルシフル・ダナン、ユリシーズ・ペレドゥイ、アマンダ・レパンズ。立って」 教壇からの呼びかけだった。昨日までBクラス生だった三人は、あわてて立ちあがる。「この三名が新しくAクラスに入った。いろいろ教えてやってくれ」 教師は手で着席を促すと…

  • 第3話 才ある者たち

     その朝、Aクラスの学生たちは一列に並んで廊下を移動していた。 担当教諭のヤスル教授にあらかじめ釘を刺されていたため、普段はおしゃべり好きの少年たちも今日は口を閉ざしている。珍しく静けさに包まれた理学院の廊下に、大人数の靴音が厳かに響いてい…

  • 第4話 愛される者と呪われる者と

     シフルは教壇に立たされて、すり鉢状の教室の底からAクラスを見上げていた。 ヤスル教授の視線に促され、少年は指折った右手をさしだす。のびた指の数は右三本、左三本の合計六本。召喚するは、六級精霊。 この日、ヤスル教授の上級精霊学講座で、新入り…

  • 第5話 動きだすとき

     どこへ行こうとしていたかは、定かではない。 けれど、確かにあのときシフルの手を引いていたのは母であり、シフルは彼女がでかけようと言ったから、大人しくついていったのだ。 あのときの母は妙に早足だった。子供のシフルでは歩幅が足りず、何度も足を…

  • 第6話 時姫

     ――メルシフル。 ふいに、頭の上から声が降ってきた。弾かれたように顔をあげると、見知らぬ若い女が見下ろしている。幼いシフルは名前を呼ばれたことで安堵し、女の手にすがった。これでもう、人ごみに呑まれることはない。 それが母の手ではないことは…

  • 第7話 この足が駆ける

     黒い霧が晴れると、そこは元いた展望台だった。 少し風がある。わずかに波立つ海があり、夕日に赤く染まる理学院の広場があった。 今、シフルのからだと視界を支配しているのは彼自身である。シフルはおそるおそる、てのひらを開いたり閉じたりしてみた。…

  • 第8話 空という名の

     ――いつでもいい、そうと決めたら俺を呼べ。そのときはすぐに行く。(そう聞いた) シフルは胸のうちでつぶやいた。(確かに聞いた。いつだったか忘れたけど、あいつは絶対そう言った!)「空(スーニャ)! オレは、今、決めたって言ってるんだよッ!」…

  • 第9話 水の郷

     今、少年の前には三枚の紙がある。 彼はそれを机の上に並べて、順々に凝視している。まばたきをしたり、裏を返したりもした。詮ないと理解しながらも、ついついむだな行動にでてしまうのは、人の性だろう。シフルはしばらくそうしてみて、当然のごとく一連…

  • 第10話 秘密

     新学期に入ると、二日めにはさっそく試験が始まる。 正式名称は昇級試験であり、Bクラスまではみなそう呼んでいた。Aクラスにきてみると、たまにふざけて脱落試験だという者がいる。脱落か残留かのふたつしかないからだ。ここで頭打ちだと思うとやる気を…

  • 第11話 “本当のこと”

     あたり、――と、誰かが言った。 シフルは耳をそばだてた。それは確かに、なじみ深い友人の声だった。もっとも、その友人と親しくなるよりずっと前から《彼》とは知りあっていたので、なじみ深いというなら友人ではなく《彼》のほうなのだけれど。「……ど…

  • 第12話 倒錯舞踏会

     長机の端にルッツ。その横にシフル、続いてセージ。反対側の端にメイシュナー。 ラージャスタン留学メンバーの四人は、午後、小教室に移動してくると、常にそのような席順で座る。シフルとセージはたまに位置を交換することもあったが、片側の隅にルッツ、…

  • 第13話 異国へ

     三人は、手をつないで闇のなかを歩いている。 ここはどこまでもどこまでも闇、人目などありはしないけれど、思わず気にしたくなるほど奇妙な状況だ。ラーガ、シフル、セージの順に横並びになり、それぞれ手を握りあっている。さしづめ、ラーガが父でセージ…

第二部へ続く
 
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