09. 終わりの歌 - 5/15

 半ば駆けこむようにして、アカデミアのラボ棟に着いた。星(メモリア)をひらけば、まだエンジュに会うためのヒントはきっとあるはず。何より、アルキスが死んだあとのエンジュがどう生きたのかを知りたかった。
 ところが、廊下のむこうからラボが見えたとき、サイレは愕然とした。
 ラボの強化ガラスの壁面は、留守中に内部を覆っていたシャッターごと見るも無惨に砕かれ、その全容をさらしていた。
 中にあった試験管様の星(メモリア)適合実験装置も、ガラスの筒が壊されているのはもちろん、周辺の精密機器も完膚なきまでに破砕されていた。
 当然、叔父の受けた衝撃はサイレどころの騒ぎではなく、叔父はここ一番の狂気を感じさせる笑いを放ったあと、その場に卒倒した。
「叔父さん!」
 だが、くずおれた叔父を床に横たえながら、サイレの目に飛びこんできたのは、あちらこちらに残された不可解な傷跡だった。
 何か、小さく鋭いものを突き刺し、そこから穴を広げるようにして破壊している。そのため、あちらこちらに小さい穴が点々とあいていた。
(そもそも、ラボの壁のガラスなら、トリゴナルの外壁と同じ強化ガラスだろ? いったい何で壊したらこんなになるんだ? バカ力のレスラーがでかいハンマーでぶったたいたって、壊れないぐらいの強度があるはずなのに)
 そうでなければ、今にもバトロイアは〈毒の海〉に沈もうとしているのに、トリゴナルの内部でなんか悠長に暮らしていられない。こんなにやすやすと壊れてしまっては、命がいくつあっても足りない。
「もしもし。アカデミアのオルドネア・モリソン教授のラボ……歴史天文学研究室です。モリソン教授が倒れました」
 端末で救急隊にコールしてから、市警察にも通報する。あとはもう、やれることがなかった。叔父はぴくりとも動かない。彼が生涯を捧げた研究の道具は、一瞬にして奪われた。
 サイレは叔父の白い顔を見て、それからまた破壊の痕跡を見やった。パンをナイフで突き通すみたいに、強化ガラスを突き通す凶器とはなんなのだろう。
 ――今の文明レベルじゃ。
「うそだ」
 自分で思いついて、すぐに自分で否定した。そんなはずはない。あれは二千年も前に存在していたもの。二千年よりもはるか以前につくられた、滅びた高度文明の名残りだ。残っているはずがない。残っていたら博物館行きに決まっている。博物館行きになったら、凶器としては使いようがない。
 でも。希望をもったって、いいんじゃないか? どのみち彼女の星(メモリア)は墜ちていて、今の世界には彼女はいないんだから。それを実現してくれるはずだった叔父も、こんなことになってしまった。
 口にしてみたらいい。口にすれば、その言葉だけは現実だ。
「エンジュは、生きている。生きていて、おれの前に……現れる。歌を……」
(歌をきかせてくれる)
 ――たったひとつの、きみだけの歌を。
 そうして手をつないで、沈んでいく。星々が満ちたあの場所に。
 遠くから、サイレンの音が近づいてくる。