「次はどこへ? サイレ。イヴ・クロカワは、次は何をしてくれるかしら? もっとちゃんと妨害してくれるかしら?」
「イヴの考えることはわからないですけど」
腹ごしらえをすませて、二人はフードコードを出た。サイレはあたりをうかがってから、端末で時間を確認する。なんだかんだで十四時近い。
「この調子だと、監視カメラ使ってこっちのこと見てるはずです。また何かしてくることはまちがいないと思いますけど。でも、おれたちが今すべきはデートです。そろそろ、このテーマパークのハイライトの時間なので、それを楽しみましょう。たまにはシファさんにも、物理法則を楽しんでもらいたいですね」
「自信はないわね」
心臓のほうは、そろそろシファが近くにいることに飽きたのか、すっかりなりをひそめている。高鳴りつづけたら身がもたないので、からだが順応したようだ。サイレにとって、歌がもはや日常の一部になったように。
けれど、いつも期待する。今度こそ、そうかもしれない、今度こそみつかったのかもしれないと、心臓が激しく自己主張するたびに思う。
「〈アトランティスの時間〉が始まりまーす! スタッフの誘導に従って移動してください」
スタッフがスピーカーで呼びかけはじめる。周囲の客が歓声をあげる。
「シファさん。行きましょう」
「わかったわ」
ほほえみがそのまま彼女の顔かのように、シファは変わらぬ微笑で応じる。
「お客さま! こちらです」
そのとき、急に近くから声をかけられ、腕を引かれた。引かれるままあとずさると、足もとをさっと水の線が横切った。
なぜか水が横切ったのは、サイレとシファのあいだである。まるで、二人を分断するかのような位置だ。サイレとシファは顔を見合わせる。
しげしげと足もとを見下ろしたシファを、線のむこう側にいるスタッフが引っぱる。
「失礼しますお客さま! ここで立ち止まられるとお靴が濡れてしまいます。こちらへ」
有無をいわさず、シファは引きずられていく。一方、サイレはサイレで、先ほどのスタッフが、お早くこちらへ、早くしないと大変、早く早く、と腕を引いてくる。
一応、デート中なんですけど? だが、すでに手の届く距離ではなかった。水の線は、みるみるうちに水量が増え、徐々に川といっていい様相になってきている。腕を引くスタッフの手を今から振り払っても、シファとのあいだには人工の川が横たわっている。
何これ? たしかにこれは〈ワールド・アトラティカ〉おなじみのイベントで、十四時になったらこうなるのはわかっている。サイレも、何度も彼女とここを訪れて、イベントを楽しむ彼女のはしゃぐ姿を見てきた。
(イヴか!)
引っぱられたままのシファが、遠ざかりながら振り返り、手を振った。サイレも引っぱられつつ、振り返っては手を振り、手を振り、少しでも気づいてもらえるように跳ねた。お客さま、とスタッフに声をかけられたが、さすがに無視する。イヴの手先め!
〈あ と で ね〉
シファの口が、はっきりと動く。
(こうなったら、絶対もう一度シファさんと再会して、必ず二人きりになってやる)
サイレは決意した。(絶対だ! 見てろよ、イヴ)
人間、邪魔されると燃えるのだ。たとえ、これといった意味はなくとも。
