「もうどこからつっこめばいいのか」
アカデミア図書館の談話室で、アイバンは頭を抱えた。海賊船に揺られながら真顔で天文学を語りつづける、アイバンが知る限り一度も彼女を切らせたことがない友人。
「恋愛のセオリーなどなんの意味もないというのか……サイレの顔と歌をまえにしては」
「そういう問題じゃないわ」
横の友人にちらりと視線を投げると、間髪入れず返事がきた。
「サイレだからよ」
「サイレだからっていうのはね。そういう星のもとに生まれたひとだってこと」
「あ、ハイ」
すかさず、もう一人の友人が補足した。もうどうしようもなく、アイバンは素直にうなずく。イヴのスピリチュアル・ファンぶりにはじゅうぶん親しんできたつもりだったが、自分がある意味本気で苦悩していることにそのネタで返されると、苦悩は深まる一方だ。
しかも、いつもはやさしくほほえんで受け入れてはいるが同意はしないラケルタも、今日はあたかもイヴの言うとおりだというふうに頭を縦に振っていた。ツッコミ不在の状況下、ちょっとだけサイレが懐かしく思えてくるアイバンだった。
「一応いっておくけど、これは恋愛じゃない」
ラケルタは真顔で言った。
「へ?」
「シファ・アーマディーには目的があるのよ。目的があって『恋愛』しようとしているの」
「へえ?」
アイバンはそろそろ帰りたくなってきた。
「イヴ、わたし……二人の近くに行きたい。何がシファの目的なのかわからないから。何かあったときにここからじゃ止められない……シファは一応、社会的なことを気にすると思うけど、いつ密室に行くかわからないでしょ?」
「密室!」
「アイバンうるさい」
イヴは端末の電源を落とした。「わかった。あたしたちも〈ワールド・アトラティカ〉行こっ。でも、念のため、予防策は講じてあるよ」
「予防策!」
「二人が密室に入りそうになったら邪魔するように、スタッフに指示出してあるから」
アイバンはこわごわと、いつになく凜としたまなざしのイヴを見やった。
「け……権力……?」
「うん」
こういうときに使わないとね、とイヴは言った。
