「自動ボート一七三番に、サイレさまらしき若い男性が乗りこみました!」
「ええっ? 今さら自動ボート?」
イヴはマネージャーの端末に飛びついた。そこにいる四人の端末をすべて駆使して、手分けしてテーマパークじゅうの監視カメラをあたっていたときのことだった。
サイレは明らかに、人気が少ない場所を避けていた。至近距離で乗客の顔を確認できる自動ボートには姿を見せなかったし、トイレなどにも現れなかった――サイレのトイレ事情がちょっぴり心配だ。混雑のなかに姿を隠して、シファを探していると思われた。
マネージャーがサイレを自動ボートのひとつに見いだしたのは、とっくに園内の人工太陽がシャットダウンされたあと。代わりに、あたりじゅうがライトアップされていた。こんな時刻にたったひとりでボートに乗りこんだ少年に、マネージャーは気づいた。
魚眼レンズの監視カメラは、狭い球形の自動ボート内を三六〇度くまなく記録する。そこに、ひとりで操作パネルを押すサイレの姿があった。目的地の設定を終えると、サイレは座席のリクライニングを倒して身を沈めた。何時間も混雑のなかを移動してきたなら当然だが、疲労困憊しているようだ。その目的地は――
「観覧車!」
サイレの操作パネルの表示を確認して、イヴとアイバンは同時に叫んだ。ラケルタは無言で立ちあがり、貴賓室を駆けだしていった。マネージャーはうなずく。
「当園自慢の大観覧車は、デートの締めくくりにふさわしいお楽しみがございます」
「ラケル、先まわりできるかなぁ?」
「微妙かと。サイレさまの現在地はサウスアイランド近く、森を再現した散策用の島ですが、通常、大観覧車へは自動ボートで所要時間二十分程度。一方、われわれのいるメインアイランドからも二十分程度かかります」
「本当に微妙……!」
「そうなると、スタートの差がそのまま結果ということになりましょうか」
「ちょっとぉー!」
「申しわけございません! これがわたくしどもにできる最大限でございます。イヴさま」
「うう……今日はありがとう……」
「イヴさまのお役に立つのがわたくしどもの幸いです。あとはご当人次第ですね」
イヴは端末を切った。自分のもアイバンのも、マネージャーのも切った。
「イヴ?」
「もうあたしたちにできることはないよ」
「いきなりどうしたよイヴ。腹でも痛くなったのか」
「アイバンうるさい。あたしたちは、ちょっと手を貸すぐらいしかできないの。運命を決めるのは、サイレとラケル自身なんだから」
「シファ女史もだろ」
「ううん」
イヴははっきりと頭を振った。
「シファ女史は悪魔みたいなもん?」
「そうだね」
アイバンは肩をすくめた。
とにもかくにも、デートの監視はこれで終了。あとは、サイレとラケルタの幸福を祈るだけだ。アイバンの週末休暇もこれで終わり。明日からはまた、アカデミアで勉強とオペレッタ練習の日々がやってくる。
