07. 最初にして最後のデート - 12/16

 人混みのなか、サイレ、と叫ぼうとして、ラケルタは口をつぐんだ。
(ちがう)
 と、口にできたら、どんなにいいだろうか。でも、それをしてしまったら、おしまい。
 いったい何年、何も言わずにきたのだろう。
 決まったわけではないのに、想像だけですべてを台なしにするのか? サイレに会ってからのわずか四年間。それは、それまでの年月を塗り替え、彼女から冷静さを奪うには、十分に鮮烈な時間だった。それまでの日々は、なんの意味もないのだと思えるほどに。
 もう少し。もう少しだから。ラケルタは長く息を吐いて、走りだそうとした。しかし、ひろがって歩く人々に道を塞がれた。気づいてゆずってくれても、また塞がれる。ラケルタは人々の合間で途方に暮れた。大好きだったテーマパークが、きらいになりそうだった。
 ――サイレ。
 その人はだめ、その人だけは。ほかのどんな女の子とデートしてもいいから。
「……しょうがないんだから……」
 ラケルタはひとりごちる。と、視界がゆらぎだす。ビン底眼鏡を少しもちあげ、指先でまぶたをおさえた。
 端末にコールが入り、ホロが立ちあがる。
〈ラケル大丈夫? サイレみつからないでしょ、一回戻ってきなよ。三時だからお茶しよっ! まだ一日は長いんだから〉
 イヴはいつも、絶妙なタイミングでラケルタに気づいてくれる。みんなはイヴの極端なところをラケルタが受け入れていると思っているが――たしかにそういう面もあるにはあるが――、そればかりではない。
「わたし冷静じゃなかったわ、イヴ」
 その答えに対して、明るい親友の声が、スピーカーから返ってきた。