狭いアイランドの人混みにまぎれながら、サイレはようやくあたりをみまわした。
イヴの監視を巻ける唯一の機会は、〈ワールド・アトラティカ〉が人工海に浸されるときのちょっとした混乱の際だけだとサイレは考えた。
いつも、事前にイベントを調べてきている客の多くは、あらかじめいい場所をとってその時間を待つが、知らない客はスタッフに誘導されて水から逃げまわる。中には、知っていて混乱を楽しむ常連客もいる。もしもトリゴナルが開発されなかったら、人類が迎えたかもしれない混乱、そこでからくも生きのびるというシナリオを、擬似的に体験するかのように。
だから、ほかのアトラクション以上に、客たちは悲鳴をあげて逃げまどう。一部には想像力をはたらかせるあまり、泣きだす客もいる。すべてがつくりものであるこの空間と時間のなかで、リアリティある感情がうずまくひとときだ。
つくられてはいるが本物に近い混乱にまぎれて、端末を人工海に捨てる。サイレはそう決めて実行し、今も人混みのなかにいた。これから、このアイランドにいる人々は、少しずつ他へ分散していく。ある者は自動ボートで、ふたたび彼女や友達だけですごす時間に戻る。またある者は、底が強化ガラスになったガラスボートで、海中の光景を楽しむ。
うまくいったかどうかはわからないが、とにかく端末は捨てた。とくに惜しいデータはない。友人たちにはアカデミアで会えばいいだけだ。イヴ側もこの混乱を利用してシファと引き離してきたのは痛恨だが、すんだことは仕方ない。必ずシファをみつけだし、デートの続きをする。それだけだ。
(あとでね、か)
シファには、この広大な園内で必ず会えるという確信があるらしい。(さて、どうする)
自動ボートでまわることができれば一番いいが、ボートはひとつひとつに監視カメラや端末が設置されている。やはり、きちんと二人きりになれる空間にたどりつくまでは、人混みにまぎれているのがいいだろう。
(まさかトイレまで監視してないよな)
あのエキセントリックな友人だ。やりかねない。そんなイヴに対するサイレの感情は、まるっきり「妹」だ。今までの彼女のなかには、イヴとの関係をあれこれ言って離れた子もいたが、サイレからしてみると的はずれも甚だしい。
(にしてもあの「妹」は……)
ともあれ今日の目的は、シファ・アーマディーに再会して、イヴに妨げられることなく二人きりになること。それだけだ。
