精霊呪縛一部

第13話 異国へ

 三人は、手をつないで闇のなかを歩いている。 ここはどこまでもどこまでも闇、人目などありはしないけれど、思わず気にしたくなるほど奇妙な状況だ。ラーガ、シフル、セージの順に横並びになり、それぞれ手を握りあっている。さしづめ、ラーガが父でセージ…

第12話 倒錯舞踏会

 長机の端にルッツ。その横にシフル、続いてセージ。反対側の端にメイシュナー。 ラージャスタン留学メンバーの四人は、午後、小教室に移動してくると、常にそのような席順で座る。シフルとセージはたまに位置を交換することもあったが、片側の隅にルッツ、…

第11話 “本当のこと”

 あたり、――と、誰かが言った。 シフルは耳をそばだてた。それは確かに、なじみ深い友人の声だった。もっとも、その友人と親しくなるよりずっと前から《彼》とは知りあっていたので、なじみ深いというなら友人ではなく《彼》のほうなのだけれど。「……ど…

第10話 秘密

 新学期に入ると、二日めにはさっそく試験が始まる。 正式名称は昇級試験であり、Bクラスまではみなそう呼んでいた。Aクラスにきてみると、たまにふざけて脱落試験だという者がいる。脱落か残留かのふたつしかないからだ。ここで頭打ちだと思うとやる気を…

第9話 水の郷

 今、少年の前には三枚の紙がある。 彼はそれを机の上に並べて、順々に凝視している。まばたきをしたり、裏を返したりもした。詮ないと理解しながらも、ついついむだな行動にでてしまうのは、人の性だろう。シフルはしばらくそうしてみて、当然のごとく一連…

第8話 空という名の

 ――いつでもいい、そうと決めたら俺を呼べ。そのときはすぐに行く。(そう聞いた) シフルは胸のうちでつぶやいた。(確かに聞いた。いつだったか忘れたけど、あいつは絶対そう言った!)「空(スーニャ)! オレは、今、決めたって言ってるんだよッ!」…

第7話 この足が駆ける

 黒い霧が晴れると、そこは元いた展望台だった。 少し風がある。わずかに波立つ海があり、夕日に赤く染まる理学院の広場があった。 今、シフルのからだと視界を支配しているのは彼自身である。シフルはおそるおそる、てのひらを開いたり閉じたりしてみた。…

第6話 時姫

 ――メルシフル。 ふいに、頭の上から声が降ってきた。弾かれたように顔をあげると、見知らぬ若い女が見下ろしている。幼いシフルは名前を呼ばれたことで安堵し、女の手にすがった。これでもう、人ごみに呑まれることはない。 それが母の手ではないことは…

第5話 動きだすとき

 どこへ行こうとしていたかは、定かではない。 けれど、確かにあのときシフルの手を引いていたのは母であり、シフルは彼女がでかけようと言ったから、大人しくついていったのだ。 あのときの母は妙に早足だった。子供のシフルでは歩幅が足りず、何度も足を…

第4話 愛される者と呪われる者と

 シフルは教壇に立たされて、すり鉢状の教室の底からAクラスを見上げていた。 ヤスル教授の視線に促され、少年は指折った右手をさしだす。のびた指の数は右三本、左三本の合計六本。召喚するは、六級精霊。 この日、ヤスル教授の上級精霊学講座で、新入り…

第3話 才ある者たち

 その朝、Aクラスの学生たちは一列に並んで廊下を移動していた。 担当教諭のヤスル教授にあらかじめ釘を刺されていたため、普段はおしゃべり好きの少年たちも今日は口を閉ざしている。珍しく静けさに包まれた理学院の廊下に、大人数の靴音が厳かに響いてい…

第2話 好敵手

「メルシフル・ダナン、ユリシーズ・ペレドゥイ、アマンダ・レパンズ。立って」 教壇からの呼びかけだった。昨日までBクラス生だった三人は、あわてて立ちあがる。「この三名が新しくAクラスに入った。いろいろ教えてやってくれ」 教師は手で着席を促すと…